マンション管理士 弁護士 土屋賢司

弁護士法人東京総合マンション管理法律事務所

地震保険判決(東京地裁令和5年1月26日)

私が代理人として対応した地震保険金請求事件で、被災者勝訴の判決が出ました。

被災者が受領する保険金は、50万円(一部損)から1000万円(全損)へ変更されています。河北新報(2023年3月10日朝刊)でも報道されました。

 

【独自】地震保険で過小判定、裁判で逆転相次ぐ 全国で被災者勝訴 支払額20倍のケースも | 河北新報オンライン

 

今回はマンションではなく戸建て(木造・枠組壁工法、いわゆるツーバイフォー工法)ですが、マンション(鉄筋コンクリート造)について勝訴した判決(*)と同様、一般に公開されていない基準(査定指針)が採用され、被災者が勝訴しています。

 

kenzitsuchiya.hatenablog.com

 

マンションで「査定指針」が適用されるためのさらなる後押しになればうれしいです。

なお、「査定指針」は現在も公開されておらず、またその「使い方」も経験がないとわかりにくい部分があります。とくに、裁判で争うにはその「使い方」が重要ですので、ご注意ください。

 

弁護士 土屋賢司

 

東京総合法律事務所

〒104-0061 東京都中央区銀座4-2-12 銀座クリスタルビル9階

電話 03-3535-7000 FAX 03-3535-7001

外部監事のご案内(管理会社による第三者管理に対応)

外部監事の受託を始めました。

管理会社による第三者管理の普及を受けて、監事への就任依頼が増えたためです。

 

他のマンション管理士や弁護士と提携し、弁護士法人として組織的に対応する予定です。

管理組合の規模や予算に応じて、弁護士とマンション管理士がチームとなって監事に就任したり、弁護士単独やマンション管理士単独で監事になるなど、柔軟に対応したいと考えています。

 

一般に、管理会社による第三者管理には利益相反の問題が指摘されます。

区分所有者に実質的な不利益が発生するのを避けることはもちろん、形式的・外形的な利益相反への不安・不信も払しょくしたいという管理組合は多く、またこの要請は第三者管理を実施する管理会社側にもあると考えます。

管理会社による第三者管理のメリットは残しつつ、利益相反の不安を抑える。そんな制度があれば第三者管理に移行したい、という管理組合は少なくないのではないでしょうか。

 

そこで私は、外部専門家が監事として関与することにより、利益相反の不安を抑える制度を実現したいと考えました。

監事になる外部専門家は、管理組合が選任し、費用も管理組合から支出されます。管理会社から業務を委託されることはありませんから、管理会社から独立の立場で監査を実施します。もちろん、区分所有法や管理規約の知識があることは大前提です。

 

私は弁護士でありマンション管理士でもあります。管理組合の外部理事や顧問もさせていただいており、日々、マンション管理に関する事件に取り組んでいます。

そのような立場で、管理会社による第三者管理が適正に実施されるためにできることがあるのではないかと考えています。それが第三者監事(外部監事)としての監査業務です。

 

ここで、私の考える「監査」とは何かについてお伝えします。

 

監査とは、委託信任関係の存在を前提に、受託者の説明義務を委託者が解除する際に、受託者の説明に信頼性を付与するもの、と考えます。

「委託信任関係」とは、管理組合(区分所有者全員)が管理会社に対して「管理者としての業務」を委託する関係です。

委託者は管理組合(区分所有者全員)で、受託者は管理会社(の社員で管理者となる人)となります。

管理会社は、管理組合(区分所有者全員)に対して、委託された「管理者としての業務」を遂行し、その途中経過や結果を報告します(これが委託信任関係に基づく説明義務の履行です。)。

この報告を受けた委託者(管理組合・区分所有者全員)は、説明内容に納得すれば、委託業務(管理者としての業務)が適正に遂行・実施されたことを確認することができ、受託者(管理会社)の任務は完了となります(説明義務の解除)。

しかし、一般に委託者は素人で、受託者は専門家です。素人が専門家の説明を聞いても、それが適正か否かを判断することは困難です。そもそも、説明された事実等が真実か否かを確認することすら難しいでしょう。

そこで、委託者(管理組合・区分所有者全員)に代わって受託者(管理会社)を監視・調査し、受託者の説明の真実性や適法性等を判断して委託者に報告することにより、委託者の判断(受託者の説明義務を解除するか否かの判断)を助けるのが、監査なのです。

これは委託者(管理組合・区分所有者全員)のための制度ではありますが、結果的には、適正な業務の遂行をした受託者(管理会社)のためにもなっています。受託者の説明義務に対して第三者の立場から信頼性を付与するものだからです。

 

監査に関する私の認識は上記のとおりです。

このような監査は、第三者管理者である管理会社の粗探しをすることが目的ではありませんし、担当者を吊るし上げるためのものでもありません。

管理会社を厳格にチェックするのは当然ですが、管理者業務が適正に遂行されていれば、それを管理組合(区分所有者全員)に対して説明する存在になります。

 

三者管理を正常に機能させることこそが目的だからです。

 

これにより管理組合(区分所有者全員)は、管理会社が不正を働いていないかを常に監視する負担や、不信感・不安を持ち続けることから開放されると思います。素人である区分所有者ではなく、専門家である監事が管理会社を監視・調査し、管理会社の説明や報告の適法性等を確認するからです。

 

外部専門家が監事に就任するということは、区分所有法や管理規約の理解はもとより、監事招集総会で理事解任議案の提出を認める裁判例前橋地裁平成30年5月22日判決)があることなども知っている第三者が監査するということです。管理会社への牽制として意味のある制度だと思います。

 

ぜひご利用ください。

 

 

弁護士法人 東京総合マンション管理法律事務所 設立

弁護士法人を設立しました。
個人の弁護士として対応するよりも、法人で組織的にサービスを提供したほうが良い場面もあると感じていたからです。
 
名称は「弁護士法人  東京総合マンション管理法律事務所」
 
法人の名称に「マンション管理」を明記しました。
マンション管理を法的にサポートするための組織、という決意を込めたものです。
 
滞納管理費等対応サブスクリプション契約が好評をいただいている中で、継続的なサービスを安心してご利用いただければと考えております。
 
皆様のご利用をお待ちしております。 
 
弁護士法人東京総合マンション管理法律事務所 土屋賢司
 

標準管理規約 改正

標準管理規約の改正が発表されました(令和3年6月22日 国住マ第33号)。

 

・ITを活用した総会・理事会

・マンション内における感染症の感染拡大のおそれが高い場合等の対応

・置き配

・共用部分と専有部分の配管を一体的に工事する場合に、修繕積立金から工事費を拠出するときの取扱い

・管理計画認定及び要除却認定の申請

・総会の議事録への区分所有者の押印を不要とする改正(デジタル社会形成整備法による区分所有法の改正・令和3年9月1日施行)

・理事会決議による理事長の解任

 

いずれも実務的に影響が大きいものですので、ご注意ください。

 

東京総合法律事務所 弁護士 土屋賢司

tsuchiya@sn-law.jp

 

 

 

 

総会会場の変更方法(緊急事態宣言対応)

 

緊急事態宣言の発出が決まりました。

これに伴い公共施設等の閉鎖も増えています。

 

総会の会場として予定していた施設が使用不能となった場合どうしたらよいのか、というご相談を複数いただきました。

 

緊急性の高いご相談ですので、情報共有の意味も込めて対応方法をご説明いたします。

 

一般に、総会の会場変更については、

①その必要性(出席者大幅増加の場合など)

②区分所有者の参加を保障する措置(旧会場における新会場への案内人の配置や、新旧会場間の移動時間分だけ開始時間の繰下げ対応など)

がなされることを前提に、実務上も認められています。

 

参考にしてください。

 

 

*「改訂新版 マンション管理組合総会運営ハンドブック」(株式会社大成出版社) 253頁

編著:高層住宅法研究会 

発行:(財)マンション管理センター、(社)高層住宅管理業協会 

 

「問103 会場の変更

 出席者が見込みより大幅に増えたため、通知した会場を変更したいのですが、どうしたらよいのでしょうか。

 

【回答】新総会会場への出席者の誘導や、新会場への変更の周知が完全になされれば問題はありません。

 

【説明】

1 管理者が当初予定していた総会会場の終了能力から当日総会出席者を…収容しきれず、別の場所に総会場を変更する必要が生じたと判断したときは、会場の変更処置をとることができます。

2 総会出席者が当初の予定人数をはるかに超えることが、総会日の数日前に明らかとなり、当日までに会場の変更を全区分所有者及び意見陳述権者に通知、提示可能であれば、速やかにその手続きをする必要があります。

3 右2の手続きを取り得なかった場合はもちろんのこと、2の通知掲示をなし得た場合であったとしても総会日当日に旧総会予定場所に会場を変更した旨の表示と、新総会場の場所及び新総会場への道順の表示をなし、さらには旧総会予定場に新会場への案内、説明をする者を配置し(これは新総会場での総会の終了時までは必要です。)、新総会場への移動が完全になされるよう手配されていれば問題はないと考えます。

4 またこの新総会予定場での開催時刻は、新総会場へ所要時間を考慮のうえ、その分繰り下げる配慮も当然要することとなります。 」

 

 

地震保険判決(東京地判令和2年11月5日)

私が担当した事件でマンションにも関わる判決がありました。

業界紙等ではすでに報道されましたが、ここでも簡単にご紹介します。

*マンション管理新聞2020年12月5日第1156号

週刊ダイヤモンド2020年12月19日発売号

 

 物件は大分県別府市に所在する鉄筋コンクリート造8階建のマンション。熊本地震で受けた被害について地震保険の保険金を請求したところ、保険会社から一部損(保険金は5%・1050万円)との認定を受けました(地震保険契約は2016年以前のもの)。

 その認定結果に不満をもった原告は、地震保険の損害認定に詳しい都甲(とこう)一級建築士に調査を依頼。都甲氏はこの建物の被害を半損(保険金は50%・1億0500万円)と評価しました。

 そこで原告は、保険会社を被告として、半損を前提とする保険金の支払を請求して訴訟を提起。

 裁判所は、原告の主張を認め、建物被害の程度を半損と認定しました。

 保険会社はこの判決を受け入れ、控訴せずに判決確定。

 原告は、保険会社に勝訴し、無事に正当な保険金を受領しました。原告代理人である私も、ともに勝訴を喜びました。

 

 この判決には、マンションにも関わる大きなポイントがいくつかあります。

 その一つは、地震保険における損害認定の「基準」が明確化されたことです。

 それもなんと、これまで一般には公開されていなかった(というか今も公開されていない)、いわば業界秘ともいえる「基準」の存在が明らかになったのです。

 

 一般に地震保険の損害認定は、保険会社から派遣された調査員が実施します。その認定に疑問をもつ被災者は少なくないと思いますが、これまでは訴訟になった例が少なく、本件のように被災者側が完全勝訴した事例は(調査した範囲では)見当たりませんでした。 

 その原因のひとつと思われるのが損害認定の「基準」の存在です。

 驚くことに、保険会社が使用している「基準」は、保険契約者である被災者らに一般公開されている「基準」とは違うことが分かったのです。

 

 例えば、地震により建物に発生した「ひび割れ」がどの程度(レベル)の損害と評価されるかについてみると、一般に公開されている「基準」には「近寄らないと見えにくい程度」「肉眼ではっきり見える程度」「鉄筋が見える程度」などの抽象的な記載しかありません。 

【一般に公開されている損害認定基準】

レベルⅠ:近寄らないと見えにくい程度のひび割れ

レベルⅡ:肉眼ではっきり見える程度のひび割れ

レベルⅢ 部分的なコンクリートの潰れ、または鉄筋が見える程度のひび割れ

レベルⅣ:…

 

 しかし、保険会社が使用している「基準」には、「ひび割れの幅」が「1mm以上5mm未満」などの客観的・定量的な記載があったのです。 

【保険会社が使用している損害認定基準】

レベルⅠ:近寄らないと見えにくい程度のひび割れ(ひび割れ幅0.2mm未満)

レベルⅡ:肉眼ではっきり見える程度のひび割れ(ひび割れ幅0.2mm以上1mm未満)

レベルⅢ 部分的なコンクリートの潰れ、または鉄筋が見える程度のひび割れ(ひび割れ幅1mm以上5mm未満)

レベルⅣ:…

 

 これでは被災者も戦いようがありません。地震で建物に「ひび割れ」が発生しても、それが損害として評価される具体的基準を知っているのは保険会社だけなんですから。

 しかも、この「保険会社が使用している損害認定基準」は、一般社団法人日本損害保険協会が作成した公式のものです。

 それにもかかわらず、その表紙には「業界内資料」と記載され、一般社団法人日本損害保険協会や保険会社のホームページなどでも公開されていません。

 保険会社と被災者はどちらも保険契約の当事者ですから、少なくとも法的には対等であるべきです。保険金の額を決める損害認定基準を知っているのは保険会社だけ、という状況はどうみても適正とは思えません。

 

 今回、保険会社の損害認定に納得ができなかった原告は、再査定を繰り返し要求し、合計6回もの現地調査が実施されました。その間、保険会社は「一部損」との認定を維持しました。6回もの調査を通じ一貫して同じ認定を維持したのですから、保険会社は確信をもって「一部損」と判断したのでしょう。

 しかし、裁判所の判断は「半損」でした。支払われる保険金も「一部損」の10倍となりました。

 結果的にみれば、保険会社の損害認定は誤っており、原告に対して適正な保険金の1割しか認めていなかったことになります。

 

 当然のことですが、保険会社も間違えることはあります。「ちょっとしたミス」というようなものはもちろん、今回のように何度も調査した上で確信をもって判断した結果ですら間違うこともあるのです。

 それにもかかわらず、「保険会社が使用している損害認定基準」が「業界内資料」として非公開とされている現状は、保険会社の誤った損害認定を検証する機会がないことを意味します。

 この事件でもし原告が途中で諦めていたら、あるいは裁判で「保険会社が使用している損害認定基準」が明らかにならなかったら、一体どうなっていたのでしょうか。

 誰でも間違えることはあります。だからこそ、誤った判断の検証や修正をする制度が必要なのであり、その機会がないということは本当に恐ろしいことです。 

 

 原告は「保険会社が使用している損害認定基準」を発見したため、それに従って請求することができました。裁判所も「保険会社が使用している損害認定基準」を正式な認定基準として採用し、それを適用して原告の主張を全面的に認めたのです。

 「業界内資料」とされている「保険会社が使用している損害認定基準」ですが、この判決がでたことによって、今後は被災者も損害認定基準として利用することができるでしょう。

 それを是とするか非とするかは立場によって様々でしょうが、これまでのように「保険会社は誤った損害認定はしない(その動機がない)から損害認定基準を公開する必要はない」というような雑な説明は許されないと思います。

 

 ちなみに、本件訴訟で一部損(保険金1050万円)と半損(保険金1億0500万円)とを分けた「レベルⅢ」のひび割れとは次のようなものです。

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 いかがですか。皆さんのイメージと比べて「こんな程度で半損が認められるのか」と思った方も多いと思います。

 もちろん半損が認定された根拠は、これ以外にレベルⅠやⅡのひび割れが多数あったからなのですが、それにしても地震保険に対する皆さんのイメージとは違っていたのではないでしょうか。 

 

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  上の写真は同じ熊本地震で被災した別の建物の被害状況です(「熊本地震における建築物被害の原因分析を行う委員会報告書」)。いかにも地震被害という感じですよね。いわゆる「せん断破壊」というものです。地震による建物の被害というと、皆さんのイメージはこんな感じなのではないでしょうか。 

 しかし、この写真の説明には「非構造壁」と書かれています。ですので、この損傷は地震保険における損害認定の対象ではありません。

 地震保険で損害認定の対象になるのは主要構造部(柱や梁など)だけなので、「非構造壁」いわゆる雑壁がどんなに大きく破損していても、地震保険の対象にはならないのです。

 

 私が普段接している理事の方々も、この辺りは熟知しています。

 「非構造壁・雑壁は損害認定の対象にならないんですよね。壁にあんな大きなせん断破壊があっても保険金が出ないなんておかしくないですか。かといって「主要構造部」(柱や梁など)にあんな損害が発生したら保険金だけじゃとても修繕できないし。結局、共用部分の地震保険は入っても意味がないんですよ。」という方が大勢います。

 この裁判を担当する以前は私もそう思っていました。

 

 でも本件判決では、多数の細かいひび割れに加えてこの「1mm」のひび割れがあったことにより「半損」が認定されています。

 1mmの幅のひび割れのイメージは先ほどの写真のとおりです。この建物にはこれ以上大きな損壊はありません。この1mm幅のひび割れによって保険金が10倍になったのです。 

 これもすべて「保険会社が使用している損害認定基準」にひび割れ幅の数値が明記されていたおかげです。ひび割れの幅自体は客観的に計測できますから、基準に従って定量的に計算することで損害が認定されたのです。

 

 「保険会社が使用している損害認定基準」を見たことにより、地震保険に対する私のイメージはかなり変わりました。「共用部分の地震保険は出ない(保険金が出るほど壊れたら修繕は無理) 」というイメージは正しくなかったと感じています。

 皆さんはいかがですか。これでも「共用部分の地震保険は入っても意味がない」と思われますか。

 

 もちろん保険金だけで建物被害をすべて修繕できるわけではありません。

 しかし、地震の直後、住民のため緊急に修繕工事をしたいと理事会が考えたときに、保険金が出る場合と出ない場合とでは、住民合意の成否やスピード感がかなり違うのではないでしょうか。

 

 私は、今回の裁判を通じて「シックネスゲージ」や「レーザーポインター」を購入しました。

 日本に住んでいる以上、地震は避けることができませんし、マンションで地震被害が発生した場合には、今回の判決で得た知識を少しでも皆さんに共有したいからです。

(シックネスゲージ) 

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(レーザーポインター) 

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 ちなみに、私はマンションの外壁タイル瑕疵訴訟を多数手掛けているので、打診棒も常備しています。

(打診棒) 

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 マンション管理を中心に業務をしていると、関連するハード面(建築や設備)の事件の依頼も多くいただきます。

 最近はそれに必要なグッズ(打診棒やシックネスゲージなど)がそろうことも密かな楽しみとなりつつあります。

 

 さらに、事件を通じて建築関係の専門家の先生方と知り合うことができるのは、何よりの楽しみです。

 本件でも、一級建築士の都甲榮充先生や、大阪大学名誉教授の鈴木計夫先生には大変お世話になりました。このお二人がいなければ訴訟の結果も変わっていたかもしれません。本当にありがとうございました。

 

 そして何よりも本件で一番すごいのは、最後まで諦めなかった原告(の代表者)です。原告のおかげで、今後、地震保険における損害の認定が客観的に行われるようになるでしょう。このような事件を担当させていただいたことに心から感謝いたします。

 

東京総合法律事務所 弁護士 土屋賢司

tsuchiya@sn-law.jp

 

以上

福岡地判平成23年8月9日:総会・理事会における「出席」(コロナ後に向けた規約改正の参考資料)

 コロナウィルスの影響を受け、マンションの総会や理事会の開催方法について様々な議論がなされています。

 さらにはコロナ後に向けて、規約や細則の改正準備も始まっています。

 

 なかでも「テレビ会議システム」の採用については、多くの管理組合で関心が高まっているようです。

 この分野では株式会社の事例が先例として多数ありますので、法令等の相違に関わらず、参考になるものを紹介させていただきます。

 

 まず、福岡地判平成23年8月9日は、遠隔地の取締役が電話会議で取締役会に参加した事案において、次のように判示しています。

(引用元:ウエストロージャパン)

「…本件取締役会決議の有効性を検討する前提として,本件取締役会に携帯電話で参加しようとしたBが,本件取締役会に出席したといえるかどうかについて検討する。

 (ア) 取締役会設置会社において,各取締役は,取締役会に出席する責務を負うところ,必ずしも物理的に取締役会が開催されている場所に出席する必要はなく,テレビ会議方式や電話会議方式による出席も可能であるものと解される(会社法施行規則101条3項1号参照)。

もっとも,取締役会は,個人的な信頼に基づき選任された取締役が相互間の協議ないし意見交換を通じて意思決定を行う会議体であるから,遠隔地にいる取締役(以下「遠隔地取締役」という。)が電話会議方式によって取締役会に適法に出席したといえるためには,少なくとも,遠隔地取締役を含む各取締役の発言が即時に他の全ての取締役に伝わるような即時性と双方向性の確保された電話会議システムを用いることによって,遠隔地取締役を含む各取締役が一同に会するのと同等に自由に協議ないし意見交換できる状態になっていることを要するものと解するのが相当である。」

会社法施行規則101条3項1号

第101条

3 取締役会の議事録は、次に掲げる事項を内容とするものでなければならない。

一 取締役会が開催された日時及び場所(当該場所に存しない取締役、執行役、会計参与、監査役、会計監査人又は株主が取締役会に出席をした場合における当該出席の方法を含む。)

 

 次に、経済産業省「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」には、次のような記載があります。

「…ハイブリッド出席型バーチャル株主総会は、遠隔地等、リアル株主総会の場に在所しない株主が、インターネット等の手段を用いて株主総会に出席し、リアル出席株主と共に審議に参加した上、株主総会における決議にも加わるような形態が想定される。

現行の会社法の解釈においては、ハイブリッド出席型バーチャル株主総会を開催することも可能とされている。ただし、開催場所と株主との間で情報伝達の双方向性と即時性が確保されていることが必要とされている。

また、出席型におけるバーチャル出席株主は、自らの議決権行使についてもインターネット等の手段を用いてこれを行うことが想定されるが、これは法 312 条 1 項所定の電磁的方法による議決権行使ではなく、招集通知に記載された場所で開催されている株主総会の場で議決権を行使したものと解される点には留意が必要である。」

 

 これらの資料によれば、理事会等の会議体への「出席」と評価されるか否かの判断要素としては、情報伝達の即時性と双方向性が重視されているようです。

 また、テレビ会議により会議体へ出席した場合、電磁的方法による議決権行使ではなく、開催場所で議決権を行使したものと評価されています。

 

 なお、規約等を改正する際には、会議体そのものに関する規定のみならず、「招集手続」や「議事録」に関する規定についても、「テレビ会議システム」に対応させなければならない点に注意が必要です。

 

                                 以上