マンション管理士 弁護士 土屋賢司

弁護士法人東京総合マンション管理法律事務所

東京地判平成30年6月26日:管理規約に明文で定められていない管理行為の権限

コロナウィルスによる影響がマンションにも及んでいます。

各マンションの理事会や理事長は、総会・理事会の開催や延期、共用施設の利用制限など、未体験の状況を手探りで慎重に対応されていることでしょう(法務省やマンション管理センター、マンション管理業協会などが対策等を発表していますので、参考にしてください。)。

 

このうち共用施設の利用制限(ゲストルームの利用禁止等)の可否については、明確な根拠や決定的な見解がまだ見当たりません。

各マンションの管理規約に明確な根拠条文があればよいのですが、一般論として、標準管理規約を前提にするとどう考えるべきでしょうか。

 

保存行為(21条6項)等を理由に、理事長の権限を認める見解もあります。明文の根拠を示している点で傾聴に値すると思います。

しかし、いま問題となっている共用施設の利用制限は、区分所有者や住民を守るための管理行為であり、建物を保存するための条文を利用することには若干の違和感があることも否めません。

 

私見ですが、(コロナウィルスを理由にした)共用施設の利用制限の権限については、標準管理規約にはそれを定めた直接の明文規定がない、という素朴な読み方からスタートせざるを得ないのではないでしょうか。

 

では、(標準)管理規約に直接の明文規定がない管理行為は、何を根拠に、どの機関の権限と考えればよいのでしょうか。

 

それについて判断した裁判例が、今回ご紹介する東京地判平成30年6月26日です。

その論理構成は極めて単純です。概要は下のとおりです。

①区分所有法上、共用部分の管理は、(変更を除いて)集会の決議による(区分所有法18条1項)。つまり総会で決議するのが原則。

②区分所有法18条2項は、管理規約で別段の定め(総会決議以外の方法による管理)をすることも認めている。

③(標準)管理規約をみると、総会決議事項(48条)、理事会決議事項(54条)、理事長権限(38条)を定めている。区分所有法18条2項の「別段の定め」として、これらをどのように解釈すべきか(特にどの規約条文にも明記されていない事項の権限をどう考えるべきか。)。

④(標準)管理規約の総会決議事項(48条)は、個別事項を列挙した最後に「その他管理組合の業務に関する重要事項」として重要な事項を包括的に規定している。したがって限定列挙と解釈すべきである。

その反対解釈によれば、列挙されていない事項は総会決議が不要となる。

すなわち、(標準)管理規約の条文構成とその解釈によれば、明記されていない管理行為の権限は、(列挙された総会決議事項と同程度に重要な事項以外は)38条の理事長権限となる(いわば規約全体の条文構成により理事長の職務として定められた事項)。

 

この論理構成に従うと、管理規約に明文で定められていない管理行為の権限は、

1)限定列挙された総会決議事項と同程度に「管理組合の業務に関する重要事項」であれば総会決議事項

2)そうでなければ理事長権限

になるものと思われます。

 

ここまでくれば、あとは限定列挙された総会決議事項と同程度の「重要性」があるかないかという評価(当てはめ)の問題となります。

 

コロナウィルスを理由とした共用施設の利用制限について考えると、次のような事由を総合的に判断することになるのでしょう。

 

(区分所有者の権利)

・共用施設の利用が区分所有者の重要な権利(物権を構成する使用権)であることは間違いない。

・他方、現在の日本で3密を伴う利用が「共用部分の通常の用法」といえるかは疑問。

・また階段やエレベーターなど建物利用に必要不可欠な共用部分と比較した場合、ゲストルーム等の利用の必要性・重要度はどの程度か。

 

(権利制限の目的、必要性)

・区分所有者や住民の生命・健康の保護。

クラスター発生による資産価値下落の回避。

 

(権利制限の手段、相当性)

・(永続的ではなく)一時的な利用制限。

・行政機関等の要請に準拠した限度での対応。

・理事会や総会における事後的な報告と追認(予定)。

 

(その他)

・そもそも3密を回避するための管理行為(共用施設の利用制限)について、3密を伴う総会や理事会の決議事項と解釈することの不自然性。

 

 

*東京地判平成30年6月26日(引用元:ウエストロージャパン) 

「…法18条は,1項において,共用部分の管理に関する事項は,共有部分の変更の場合を除いて,集会の決議で決すると規定し,2項において,前項の規定は,規約で別段の定めをすることを妨げないと規定している。そして,前記1でみたところによれば,被控訴人は法3条所定の区分所有者の団体に,理事長は法25条所定の管理者に,被控訴人の総会は法34条所定の集会に,本件規約は法30条所定の規約にそれぞれ当たることが認められるところ,被控訴人においては,本件規約第52条において総会決議事項を,第58条において理事会決議事項を,それぞれ定めている。そして,本件規約第52条は,同条各号が定める事項については総会の決議を経なければならない(絶対的総会決議事項)と定めているところ,同条11号が「その他管理組合の業務に関する重要事項」という包括的な規定振りとなっていることから考えて,同条各号の絶対的総会決議事項は,限定列挙であると解するのが相当である。そうすると,本件規約第52条は,その反対解釈として,法18条1項所定の共用部分の管理に関する事項(共用部分の変更の場合を除く)のうち,上記の絶対的総会決議事項に当たらない事項については,法18条2項所定の規約による別段の定めとして,総会の決議を経る必要はないものとする(本件規約第42条1号所定の規約により理事長の職務として定められた事項あるいは法26条1項所定の規約で定めた行為として,管理者である理事長の権限に属する。)と解することになる。併せて,本件規約第58条は,理事会において総会提出議案を決議することができる旨を定めているところ,規約の文言上,理事会で決議をする総会提出議案の対象が上記の絶対的総会決議事項に限定されていないことから,これらの絶対的総会決議事項に当たらない事項であっても,法の規律に抵触しない範囲において,理事会の決議を経て,総会決議事項とすることができる(相対的総会決議事項)と考えられる(法45条の規定も,法が定める集会決議事項のほか,規約が定める集会決議事項を想定しているものと解される。)。」

 

                                  以上