マンション管理士 弁護士 土屋賢司

弁護士法人東京総合マンション管理法律事務所

福岡地判平成23年8月9日:総会・理事会における「出席」(コロナ後に向けた規約改正の参考資料)

 コロナウィルスの影響を受け、マンションの総会や理事会の開催方法について様々な議論がなされています。

 さらにはコロナ後に向けて、規約や細則の改正準備も始まっています。

 

 なかでも「テレビ会議システム」の採用については、多くの管理組合で関心が高まっているようです。

 この分野では株式会社の事例が先例として多数ありますので、法令等の相違に関わらず、参考になるものを紹介させていただきます。

 

 まず、福岡地判平成23年8月9日は、遠隔地の取締役が電話会議で取締役会に参加した事案において、次のように判示しています。

(引用元:ウエストロージャパン)

「…本件取締役会決議の有効性を検討する前提として,本件取締役会に携帯電話で参加しようとしたBが,本件取締役会に出席したといえるかどうかについて検討する。

 (ア) 取締役会設置会社において,各取締役は,取締役会に出席する責務を負うところ,必ずしも物理的に取締役会が開催されている場所に出席する必要はなく,テレビ会議方式や電話会議方式による出席も可能であるものと解される(会社法施行規則101条3項1号参照)。

もっとも,取締役会は,個人的な信頼に基づき選任された取締役が相互間の協議ないし意見交換を通じて意思決定を行う会議体であるから,遠隔地にいる取締役(以下「遠隔地取締役」という。)が電話会議方式によって取締役会に適法に出席したといえるためには,少なくとも,遠隔地取締役を含む各取締役の発言が即時に他の全ての取締役に伝わるような即時性と双方向性の確保された電話会議システムを用いることによって,遠隔地取締役を含む各取締役が一同に会するのと同等に自由に協議ないし意見交換できる状態になっていることを要するものと解するのが相当である。」

会社法施行規則101条3項1号

第101条

3 取締役会の議事録は、次に掲げる事項を内容とするものでなければならない。

一 取締役会が開催された日時及び場所(当該場所に存しない取締役、執行役、会計参与、監査役、会計監査人又は株主が取締役会に出席をした場合における当該出席の方法を含む。)

 

 次に、経済産業省「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」には、次のような記載があります。

「…ハイブリッド出席型バーチャル株主総会は、遠隔地等、リアル株主総会の場に在所しない株主が、インターネット等の手段を用いて株主総会に出席し、リアル出席株主と共に審議に参加した上、株主総会における決議にも加わるような形態が想定される。

現行の会社法の解釈においては、ハイブリッド出席型バーチャル株主総会を開催することも可能とされている。ただし、開催場所と株主との間で情報伝達の双方向性と即時性が確保されていることが必要とされている。

また、出席型におけるバーチャル出席株主は、自らの議決権行使についてもインターネット等の手段を用いてこれを行うことが想定されるが、これは法 312 条 1 項所定の電磁的方法による議決権行使ではなく、招集通知に記載された場所で開催されている株主総会の場で議決権を行使したものと解される点には留意が必要である。」

 

 これらの資料によれば、理事会等の会議体への「出席」と評価されるか否かの判断要素としては、情報伝達の即時性と双方向性が重視されているようです。

 また、テレビ会議により会議体へ出席した場合、電磁的方法による議決権行使ではなく、開催場所で議決権を行使したものと評価されています。

 

 なお、規約等を改正する際には、会議体そのものに関する規定のみならず、「招集手続」や「議事録」に関する規定についても、「テレビ会議システム」に対応させなければならない点に注意が必要です。

 

                                 以上

東京地判平成30年6月26日:管理規約に明文で定められていない管理行為の権限

コロナウィルスによる影響がマンションにも及んでいます。

各マンションの理事会や理事長は、総会・理事会の開催や延期、共用施設の利用制限など、未体験の状況を手探りで慎重に対応されていることでしょう(法務省やマンション管理センター、マンション管理業協会などが対策等を発表していますので、参考にしてください。)。

 

このうち共用施設の利用制限(ゲストルームの利用禁止等)の可否については、明確な根拠や決定的な見解がまだ見当たりません。

各マンションの管理規約に明確な根拠条文があればよいのですが、一般論として、標準管理規約を前提にするとどう考えるべきでしょうか。

 

保存行為(21条6項)等を理由に、理事長の権限を認める見解もあります。明文の根拠を示している点で傾聴に値すると思います。

しかし、いま問題となっている共用施設の利用制限は、区分所有者や住民を守るための管理行為であり、建物を保存するための条文を利用することには若干の違和感があることも否めません。

 

私見ですが、(コロナウィルスを理由にした)共用施設の利用制限の権限については、標準管理規約にはそれを定めた直接の明文規定がない、という素朴な読み方からスタートせざるを得ないのではないでしょうか。

 

では、(標準)管理規約に直接の明文規定がない管理行為は、何を根拠に、どの機関の権限と考えればよいのでしょうか。

 

それについて判断した裁判例が、今回ご紹介する東京地判平成30年6月26日です。

その論理構成は極めて単純です。概要は下のとおりです。

①区分所有法上、共用部分の管理は、(変更を除いて)集会の決議による(区分所有法18条1項)。つまり総会で決議するのが原則。

②区分所有法18条2項は、管理規約で別段の定め(総会決議以外の方法による管理)をすることも認めている。

③(標準)管理規約をみると、総会決議事項(48条)、理事会決議事項(54条)、理事長権限(38条)を定めている。区分所有法18条2項の「別段の定め」として、これらをどのように解釈すべきか(特にどの規約条文にも明記されていない事項の権限をどう考えるべきか。)。

④(標準)管理規約の総会決議事項(48条)は、個別事項を列挙した最後に「その他管理組合の業務に関する重要事項」として重要な事項を包括的に規定している。したがって限定列挙と解釈すべきである。

その反対解釈によれば、列挙されていない事項は総会決議が不要となる。

すなわち、(標準)管理規約の条文構成とその解釈によれば、明記されていない管理行為の権限は、(列挙された総会決議事項と同程度に重要な事項以外は)38条の理事長権限となる(いわば規約全体の条文構成により理事長の職務として定められた事項)。

 

この論理構成に従うと、管理規約に明文で定められていない管理行為の権限は、

1)限定列挙された総会決議事項と同程度に「管理組合の業務に関する重要事項」であれば総会決議事項

2)そうでなければ理事長権限

になるものと思われます。

 

ここまでくれば、あとは限定列挙された総会決議事項と同程度の「重要性」があるかないかという評価(当てはめ)の問題となります。

 

コロナウィルスを理由とした共用施設の利用制限について考えると、次のような事由を総合的に判断することになるのでしょう。

 

(区分所有者の権利)

・共用施設の利用が区分所有者の重要な権利(物権を構成する使用権)であることは間違いない。

・他方、現在の日本で3密を伴う利用が「共用部分の通常の用法」といえるかは疑問。

・また階段やエレベーターなど建物利用に必要不可欠な共用部分と比較した場合、ゲストルーム等の利用の必要性・重要度はどの程度か。

 

(権利制限の目的、必要性)

・区分所有者や住民の生命・健康の保護。

クラスター発生による資産価値下落の回避。

 

(権利制限の手段、相当性)

・(永続的ではなく)一時的な利用制限。

・行政機関等の要請に準拠した限度での対応。

・理事会や総会における事後的な報告と追認(予定)。

 

(その他)

・そもそも3密を回避するための管理行為(共用施設の利用制限)について、3密を伴う総会や理事会の決議事項と解釈することの不自然性。

 

 

*東京地判平成30年6月26日(引用元:ウエストロージャパン) 

「…法18条は,1項において,共用部分の管理に関する事項は,共有部分の変更の場合を除いて,集会の決議で決すると規定し,2項において,前項の規定は,規約で別段の定めをすることを妨げないと規定している。そして,前記1でみたところによれば,被控訴人は法3条所定の区分所有者の団体に,理事長は法25条所定の管理者に,被控訴人の総会は法34条所定の集会に,本件規約は法30条所定の規約にそれぞれ当たることが認められるところ,被控訴人においては,本件規約第52条において総会決議事項を,第58条において理事会決議事項を,それぞれ定めている。そして,本件規約第52条は,同条各号が定める事項については総会の決議を経なければならない(絶対的総会決議事項)と定めているところ,同条11号が「その他管理組合の業務に関する重要事項」という包括的な規定振りとなっていることから考えて,同条各号の絶対的総会決議事項は,限定列挙であると解するのが相当である。そうすると,本件規約第52条は,その反対解釈として,法18条1項所定の共用部分の管理に関する事項(共用部分の変更の場合を除く)のうち,上記の絶対的総会決議事項に当たらない事項については,法18条2項所定の規約による別段の定めとして,総会の決議を経る必要はないものとする(本件規約第42条1号所定の規約により理事長の職務として定められた事項あるいは法26条1項所定の規約で定めた行為として,管理者である理事長の権限に属する。)と解することになる。併せて,本件規約第58条は,理事会において総会提出議案を決議することができる旨を定めているところ,規約の文言上,理事会で決議をする総会提出議案の対象が上記の絶対的総会決議事項に限定されていないことから,これらの絶対的総会決議事項に当たらない事項であっても,法の規律に抵触しない範囲において,理事会の決議を経て,総会決議事項とすることができる(相対的総会決議事項)と考えられる(法45条の規定も,法が定める集会決議事項のほか,規約が定める集会決議事項を想定しているものと解される。)。」

 

                                  以上

東京高判平成30年3月15日(ウエストロージャパン):区分所有者は管理組合(理事会)の管理不備等を理由に滞納管理費等の支払いを拒絶(同時履行を主張)することはできない

私は、弁護士の中では極めて少数派ですが、マンション管理に関わる業務を中心に活動しています。その関係で、多くの理事会や総会に参加し、毎日のように理事や区分所有者、マンション管理士、管理会社の担当者等から相談を受けています。

 

特定の区分所有者が、理事会や総会で自分の意見が採用されないことに不満をもち、「理事会がきちんとした管理を実施するまで管理費は払わない(同時履行)。」、「理事会が管理を怠っているので、私が自腹で管理行為をした。私は管理組合に対して求償権を持っている。滞納した管理費はこの求償権で相殺する。」と主張することがあります。

 

もちろん、理事会は、すべての区分所有者が公平にサービスを享受できるように管理すべきですし、仮に管理組合の業務を何らかの事情で区分所有者が代行したような場合には、その費用を填補すべきでしょう。

 

問題になるのは、いわゆる「クレーマー」住民が、勝手な妄想や根拠のない独断的な主張を前提に、理事会の活動に反対する手段のひとつとして、管理費等の同時履行や、求償権による相殺を主張する場合です。

このような場面でクレーマーが狙っているのは、管理費等の支払拒否そのものではなく、むしろ理事会に対して、「クレーマーの主張に対応した後でなければ管理費等を請求できない。」と誤解させることです。

理事会は、クレーマーから同時履行や相殺を主張されると、まずはクレーマーの主張内容に反論したくなりますよね。適正に活動している理事会であればあるほど、まずは理事会の活動内容について十分に説明し、クレーマーの主張の間違いを正した上で、理事会の正当性を理解してもらいたくなる気持ちはよく分かります。

しかし、理事会がどれだけクレーマーと議論を尽くしても、クレーマーが納得することはありません。

なぜなら、クレーマーの目的は、問題の解決ではなく、自分の知識をひけらかして承認欲求を満たすことだからです。どれだけ説明しても納得することはなく、たとえ理事会から論駁されても、さらに争点をずらしながら、いつまでも議論を続けたがるのがクレーマーです。

 

通常であれば、理事会は、住民が管理について疑問を感じている場合、まずは説明と議論によりその問題を解決した上で、納得した住民から管理費等を支払ってもらいたいと考えます。住民も、理事会による説明で疑問が解消すれば、納得して管理費等を支払うでしょう。

しかし、クレーマーの場合は違います。通常の①議論による問題解決→②管理費等の支払いという2段階を悪用し、①の議論に理事会を引きずり込む手段として、②を持ち出すのです。

 

 そこで、この裁判例をご紹介します。理事(会)を過剰な負担から解放してくれるものと考えます(なお、下でご紹介する裁判例がクレーマー事案であったということではなく、クレーマーに対応するときに活用できる先例という趣旨です。)。

 

(結論)

区分所有者は、管理組合(理事会)の管理業務の不履行を理由に、滞納管理費の支払の拒否(同時履行の主張)をすることができない。

 

(理由)

①規約に基づき区分所有者が管理組合に支払うべきものとされている管理費等は、マンション及び敷地全体の日常の維持管理業務、修繕業務をはじめとする、管理組合としての諸活動を行うための原資となるもの。

②共用部分についての維持管理業務等は、個々の区分所有者の管理費等の支払と直接の対価関係がない。

③したがって、区分所有者の管理費等の支払義務と管理組合による共用部分の修繕義務は、いずれも規約上の義務であるとしても、その間には、履行上の牽連関係はなく、同時履行の抗弁は認められない。

 

 

(引用元:ウエストロージャパン) 

主文

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

 

事実及び理由

第1  控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人の請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。

 

第2  事案の概要

1  本件は,原判決別紙物件目録記載1の区分所有建物(以下「本件マンション」という。)の区分所有者全員で構成する管理組合である被控訴人が,本件マンションの区分所有者である控訴人に対し,管理規約に定める平成23年5月分から平成28年7月分まで1か月当たり1万2000円の管理費及び補修積立金(以下「管理費等」という。)合計75万6000円及び上記各月の管理費等に対する各支払期日の翌日から各支払済みまで管理規約に定める日歩5銭以下である年18.25パーセントの割合による遅延損害金の支払を求め,これに対し,控訴人が本件マンションの共用部分に起因する雨漏りがあり,その修繕義務と管理費等の支払義務は履行上の牽連関係があるとして,同時履行の抗弁を主張した事案である。

  原審は,控訴人の上記同時履行の抗弁を認めず,被控訴人の請求を全部認容した。

  控訴人は,これを不服として,本件控訴を提起した。

 

2  前提事実

 (1)  被控訴人は,建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」という。)3条に基づき,本件マンションの区分所有者が,全員で,建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うために構成する団体である。

 

 (2)  控訴人は,平成13年1月9日,本件マンションの原判決別紙物件目録記載2の建物(以下「本件専有部分」という。)を競売により取得し,以降,現在に至るまで本件専有部分を所有している本件マンションの区分所有者である。

 

 (3)  本件マンションに係る区分所有法30条の規約である「X管理組合規約」(以下「本件規約」という。)には,次の定めがある。 (乙3)

ア 被控訴人は,管理業務として,次の業務を行う(15条(1))。

敷地及び共用部分等の点検,定期保守,清掃等の維持管理,共用部分等の諸修繕,建物及び敷地の固定資産税・都市計画税及び共用部分等の水道料金等の配分,徴収,共用部分に付保する損害保険契約に関する事項並びにその他日常の維持管理に関する業務

イ 組合員は,上記アの業務を行うために必要な費用,管理費(月額)を支払うものとする(22条1項)。

ウ 管理費の内訳は,次のとおりとする(27条)。

  共用部分等の水道料,揚水用ポンプ等の動力費,共用部分等の電灯費(門灯,廊下),事務処理費,廊下,共用部分等の清掃費,町会その他渉外業務の一般経費,清掃用器具及び消耗品の購入費,照明器具及び消耗部品購入費,ゴミ処理費,給水タンク投薬代経費,決算事務費

エ 組合員は,下記オに掲げる業務を行うために必要な費用として,管理費用の他に補修積立金(月額)を支払うものとする(22条2項)。

オ 補修積立金は,次の目的のために支出されるものとする(27条2項)。

  外壁,内壁,床,手すり,天井,ホール等共用部分等の補修,修繕費(塗装を含む。),揚水用ポンプ等受電,配電設備,の取替修繕費,不慮の事故その他の事由による共用部分等の修繕費

カ 管理費等は,翌月分を毎月末日までに支払い,管理費等を滞納した場合には日歩5銭の割合による遅延損害金を組合に支払うものとする(23条1項,3項)。

キ 平成3年3月30日以降は,管理費の額は1か月3000円,補修積立金の額は1か月9000円であった。

 

(4)  控訴人は,平成23年5月分以降の管理費等を支払っていない。(争いのない事実)

 

3  当事者の主張

 (1)  控訴人の主張

平成22年6月頃から,控訴人が所有する本件専有部分の天井から雨漏りがするようになったが,その雨漏りが発生した原因は,控訴人が依頼した調査の報告書(乙1)及び被控訴人が依頼した調査の報告書(乙2)によれば,共有部分の分電盤である可能性が高く,被控訴人が,共有部分である分電盤について管理組合として本来行うべき管理,保全をしていなかったため,その結果として,本件専有部分に多大の損害を与えたものと考えられる。

  被控訴人が本件規約に基づき共用部分等の修繕義務(調査義務,修繕義務)を負うところ,このように,控訴人の区分所有部分(本件専有部分)に損害が生じた原因が共用部分の不具合にあるから,被控訴人は本件規約に基づき同不具合部分の修繕義務を負い,他方,控訴人の管理費等の支払義務も本件規約に基づいて発生しているのであるから,いずれも本件規約に基づき発生した被控訴人の同不具合の修繕義務と控訴人の管理費等の支払義務とを相互に関連的に履行させることが当事者の公平に適するというべきであって,両債務の間には履行上の牽連関係が認められるべきである。被控訴人が控訴人に送信した通知書(乙4)にも,被控訴人が修理代金を支払うことを前提として,控訴人が滞納管理費等を直接被控訴人に支払わず,修理業者の代金の一部に充当し,残額を被控訴人は負担する旨が記載されており,被控訴人の修繕義務と控訴人の管理費等の支払義務との同時履行を確認したものであるから,被控訴人が同時履行を否定するのは信義則(禁反言)に反する。控訴人は,雨漏りが発生したことで,第三者に賃貸することもできず,多大の損害を被っており,本件において,被控訴人が請求する管理費等は僅少にすぎないから,平成23年5月以降の管理費等の全額について支払を拒否できる。修繕義務を履行しない状況で年18.25パーセントという暴利に近い遅延損害金の支払を求めることは信義則にも反する。

  したがって,控訴人は,同時履行の抗弁権を行使し,被控訴人が共用部分の修繕義務を履行しない限り,管理費等の支払を拒否する。

 

 (2)  被控訴人の主張

  控訴人は,本件専有部分の天井からの雨漏りにより天井,壁面が変色し,カビが生じたなどと主張するが,否認する。

  マンションの管理費等は,マンションの区分所有者全員が建物及び敷地の維持管理という共通の必要に供するために自らを構成員とする管理組合に拠出すべき資金であり,この拠出義務は管理組合の構成員であることに由来するものである。マンションの維持管理は,区分所有者の全員が管理費等を拠出することを前提として,規約に基づき,集団的,計画的,継続的に行われるものであるから,区分所有者の一人でも現実にこれを拠出しないときは,建物の維持管理に支障を生じかねないことになり,当該区分所有者を含む区分所有者全員が不利益を被ることになり,管理組合の運営も困難になりかねない。

  したがって,被控訴人の修繕義務と区分所有者である組合員の管理費等の支払義務には,牽連関係がなく,同時履行の抗弁は認められない。

 

第3  当裁判所の判断

1  当裁判所も,控訴人の同時履行の抗弁は認められず,被控訴人の請求は全部認容すべきであるから,本件控訴は理由がないものと判断する。その理由は,次のとおりである。

 

2  まず,控訴人は,一級建築士E作成の調査報告書(乙1)及び株式会社a電設工事部主任F作成の調査報告書(乙2)を根拠として,本件専有部分の雨漏りの原因は,共用部分である分電盤にある可能性が高いから,被控訴人がその原因を究明し,修繕をすべき義務があると主張するが,他方で,被控訴人は,これを否認し,控訴人が本件専有部分について改修工事を実施しているところ,その施工上の問題が本件専有部分の雨漏りの原因である旨主張しており,上記報告書の記載のみからは,本件専有部分の雨漏りが被控訴人による共用部分の管理が原因であるとも,被控訴人が修繕義務を負うものとも認めるには十分ではない。

  この点は措くとしても,本件規約によれば,本件規約に基づき区分所有者である組合員が被控訴人に支払うべきものとされている管理費等は,本件マンション及び敷地全体の日常の維持管理業務,修繕業務をはじめとする,被控訴人の管理組合としての諸活動を行うための原資となるものであって,その共用部分についての維持管理業務等は,組合員である個々の区分所有者の管理費等の支払と直接の対価関係がない。したがって,区分所有者の管理費等の支払義務と管理組合による共用部分の修繕義務は,いずれも本件規約上の義務であるとしても,その間には,履行上の牽連関係はなく,同時履行の抗弁は認められない。

  控訴人は,本件専有部分に損害が生じた原因である被控訴人の共用部分の不具合の修繕義務と控訴人の管理費等の支払義務は,相互の関係性が強く,これらを関連的に履行させることが公平に適するというが,管理費等の上記目的及び性質等に照らし,上記の管理費等の支払義務と修繕義務を相互に関連して履行させることが公平に適するとはいえない。

  また,控訴人は,被控訴人も,通知書(乙4)において,上記の修繕義務と管理費等の支払義務の同時履行を確認しており,本件訴訟において,同時履行を否定するのは信義則(禁反言の法則)に反するというが,同通知書には,まず控訴人が業者に対し修理代前金を支払い,次いで被控訴人が業者に対し修理代残金を支払い,被控訴人の控訴人に対する滞納管理費等の支払請求権と控訴人による修理代前金の立替払による控訴人の被控訴人に対する求償権とを対当額において相殺する趣旨の記載がされているのであって,被控訴人が控訴人に対し,被控訴人の修繕義務と控訴人の管理費等の支払義務とが同時履行の関係となることを確認したものとはいえない。

  さらに,被控訴人が,管理費等を支払わない控訴人に対し,本件規約上定められた遅延損害金を請求することは,信義則に反するものとはいえない。

 

3  以上によれば,被控訴人の本件請求は理由があるからこれを認容した原判決は相当であり,本件控訴は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。

                                                                                                                                以上

東京高判平成9年10月15日(判時1643号137頁):区分所有者は管理組合への債権を有していても滞納管理費等との相殺を主張することができない

私は、弁護士の中では極めて少数派ですが、マンション管理に関わる業務を中心に活動しています。その関係で、多くの理事会や総会に参加し、毎日のように理事や区分所有者、マンション管理士、管理会社の担当者等から相談を受けています。

 

特定の区分所有者が、理事会や総会で自分の意見が採用されないことに不満をもち、「理事会がきちんとした管理を実施するまで管理費は払わない(同時履行)。」「理事会が管理を怠っているので、私が自腹で管理行為をした。私は管理組合に対して求償権を持っている。滞納した管理費はこの求償権で相殺する。」と主張することがあります。

 

もちろん、理事会は、すべての区分所有者が公平にサービスを享受できるように管理すべきですし、仮に管理組合の業務を何らかの事情で特定の区分所有者が代行したような場合には、その費用を填補すべきでしょう。

 

問題になるのは、いわゆる「クレーマー」住民が、勝手な妄想や根拠のない独断的な主張を前提に、理事会の活動に反対する手段のひとつとして、管理費等との同時履行や、求償権による相殺を主張する場合です。

このような場面でクレーマーが狙っているのは、管理費等の支払拒否そのものではありません。むしろ、理事会に対して、「この住民(クレーマー)の主張に対応して解決した後でなければ、管理費等を請求できない。」と誤解させることにあります。

 

理事会としては、クレーマーから同時履行や相殺を主張されると、まずはクレーマーの主張内容に反論したくなりますよね。適正に活動している理事会であればあるほど、まずは理事会の活動内容について十分に説明し、クレーマーの主張が間違いであることを示した上で、理事会の正当性を理解してもらいたくなるという気持ちはよく分かります。

しかし、理事会がどれだけクレーマーと議論を尽くしても、客観的な資料を示して丁寧に説明しても、クレーマーが納得することはありません。

なぜなら、クレーマーの目的は、問題を解決することにあるのではなく、自分の知識をひけらかして承認欲求を満たすことにあるからです。どれだけ説明しても納得することはなく、たとえ理事会から論駁されても、理由をつけては争点をずらし、いつまでも議論を続けたがるのがクレーマーなのです。

 

通常であれば、理事会は、住民が管理について疑問を感じている場合、まずは説明と議論によりその問題を解決した上で、納得した住民から管理費等を支払ってもらいたいと考えます。住民も、理事会による説明で疑問が解消すれば、納得して管理費等を支払うでしょう。

しかし、クレーマーの場合は違います。①議論による問題解決→②管理費等の支払い、という2段階の対応を悪用し、①の議論に理事会を引きずり込む手段として、②を持ち出すのです。

 

そこで、この裁判例をご紹介します。理事(会)を過剰な負担から解放してくれるものと考えます(なお、下でご紹介する裁判例がクレーマー事案であったということではなく、クレーマーに対応するときに活用できる先例という趣旨です。)。

 

 

(結論)

区分所有者は、管理組合に対して有する債権を理由に、滞納管理費の支払債務と相殺を主張することができない。

 

(理由)

①管理費等は、区分所有者全員がマンションの維持管理という共通の必要のために、自分たちが構成員である管理組合に拠出する資金。したがって、この拠出義務は、管理組合の構成員であることに由来し、その内容は管理組合自身が規約で定めている。

②マンションの維持管理は、区分所有者の全員が管理費等を拠出することを前提として規約に基づき集団的、計画的、継続的に行われるもの。区分所有者の一人でも現実にこれを拠出しないときには、建物の維持管理に支障を生じかねず、当該区分所有者自身を含む区分所有者全員が不利益を被ることになる。管理組合自体の運営も困難になりかねない。

③このような管理費等拠出義務の集団的、団体的な性質とその現実の履行の必要性に照らすと、マンションの区分所有者が管理組合に対して有する金銭債権を自働債権とし管理費等支払義務を受働債権として相殺し管理費等の現実の拠出を拒絶することは、自らが区分所有者として管理組合の構成員の地位にあることと相容れない。

④このような相殺は、明示の合意又は法律の規定をまつまでもなく、その性質上許されない。

 

(引用元:ウエストロージャパン) 

 主  文

一  本件控訴を棄却する。

二  附帯控訴による請求の拡張に基づき、本件区分所有者は本件管理組合に対し、原判決認容額のほか更に金三六五万〇一〇四円及びそのうち別紙「一〇三号室滞納一覧表」(NO.1及びNO.2)の「合計」欄記載の各金員中「請求月」欄が平成七年一〇月から平成八年一〇月までの間の各月に対応する各「合計」欄に記載の金員に対する右各月一六日から支払済みまで年一五パーセントの割合による金員を支払え。

三  控訴費用及び附帯控訴費用は本件区分所有者の負担とする。

四  この判決の第二項は仮に執行することができる。

 

理  由

 

一  請求原因は、当審における請求の拡張前及び右拡張後のもののいずれも当事者間に争いがない。

二  そこで、抗弁について判断する。

1  一般管理費の支払拒絶権の主張について

《証拠略》の中には、本件区分所有者の代表取締役である甲野花子がロビーで来客と面談していると一〇分もしないうちに管理人が来てロビーを使わせないようにしたとか、鍵をAさんに渡してほしいと管理人に言ったところ一〇三号室の用事はできないと言われ、それでは鍵をポストに入れていると伝えてほしいと頼んだところ管理費を払ってないのだから一〇三号室の依頼は一切できないと言われたというような記載があるが、そのほかには本件区分所有者のために一般管理業務がされていないことについて触れる具体的な証拠はない。そして、右陳述書の記載によれば、そのようなことがあったとしても本件区分所有者が本件管理費等を滞納し始めた後のことであることが明らかである上、一般管理費は管理人のする管理業務と直接の対価関係のある性質のものではないから、これをもって一般管理費の支払を拒絶する理由とすることはできない。

  また《証拠略》によると、本件管理組合の平成四年度から平成六年度までの通常集会の議案の中に、本件区分所有者方(一階)の天井の漏水につき二階の区分所有者が本件区分所有者から損害賠償を求める民事訴訟を提起されたときはその者のため本件管理組合が弁護人の選任その他の協力をし訴訟費用、弁護士費用を負担する旨提案するものがあり、これが可決されていることが認められる。本件区分所有者は、一般管理費は右のような本件区分所有者相手の訴訟の費用として使用される可能性のあるものであるから本件区分所有者にその支払義務はないと主張するのであるが、本件管理組合がこのような議案を用意し集会で可決されたとしても、それ故に本件区分所有者が一般管理費の支払を拒絶することができると解すべき理由はない。《証拠略》によると、右議案は、本件管理組合が二階からの漏水防止のために二階の区分所有者方の排水管エルボの交換工事を実施しようとしたのに対し本件区分所有者が反対したためこれが実施できなかったことを受けて提案されたものであることが認められるから、この点からしても右主張は理由がない。

  したがって、本件区分所有者の支払拒絶権の主張は採用することができない。

 

2  境界壁の修理工事費の償還請求権との相殺の主張について

(一)  《証拠略》によると、次の事実を認定することができる。

  本件区分所有者は昭和六一年四月一七日前所有者から本件建物を買い受けたが(争いがない。)、本件建物は本件マンションの一階部分で登記簿上の床面積三一九・七三平方メートルという広い専有部分である。本件マンションの敷地は本件建物の南側及び東側が相当広い庭園になっているが、本件管理組合の管理規約(本件マンション管理規約)では「一階専有部分に直接南面および東面して造園された庭園の一部は、その専有部分の区分所有者が無償で専用することができる。但し、庭園以外の目的に使用し、第三者に転貸し、占有させ、または構築物を設置してはならない。この場合、樹木の維持管理は、その区分所有者が行う。」と定められており(第七条第二項)、右の一階専有部分の区分所有者に該当する本件区分所有者が右の南面及び東面する庭園(鍵の手に接続している。)について専用使用権を有する。

  右の庭園と東側隣地との境界は直線の境界であるが、その境界には万年壁が設置されており、右万年壁の西側にはこれに沿って少し間を隔てて丈の低いコンクリート製の擁壁(境界壁ではない。)が設置されている。そして右の二つの壁の間(以下「東側ベルト状部分」という。)には土が入れられ、樹木が一列に植えられていた(現況は、後記のように右樹木の東側に右万年壁に沿って竹の垣根が存在する。)。

  本件区分所有者は、昭和六二年一一月、モリオキ産業株式会社に注文して前記コンクリート擁壁の壁面に煉瓦様タイルを貼る工事をしたが、右工事費用は二二六万二〇〇〇円であり本件区分所有者がこれを負担して支払った。

 

(二)  本件区分所有者は、コンクリート雛壁は共用部分であるところ、前記のように植えられていた樹木の根が右擁壁を圧迫して変形させ、地震等で倒壊して人的被害の出ることが予想されたため、本件管理組合のためにする意思でその壁の修復を行い表面をタイルで補強したものであるから、前記費用について本件管理組合に償還を請求する権利があると主張する。しかし、前記乙第一号証及び原審における本件区分所有者代表者本人の供述によっても前記工事が右主張のとおりの理由で必要であったことまでを認めることはできず、そのほかに右事実を認めるに足りる証拠はない。かえって、《証拠略》によると、本件区分所有者は前記庭園について前年の昭和六一年に大規模な造園工事を施し立派な庭園に仕立てたが、右のタイル張り工事の結果右庭園は更に見映えのするものになったことが認められるのであり、このこととタイルをコンクリートの壁面に張ったとしても倒壊防止策として特に有用なものとまで考え難いことに照らすと、本件区分所有者は庭園の専用使用権者として主として本件区分所有者自身の利益のために前記工事をしたと推認せざるを得ない。そうすると、本件区分所有者は本件管理組合に対し右工事費用の償還を請求することはできないから、右償還請求権を自働債権とする本件区分所有者の相殺の主張は、その余の点について判断するまでもなく採用することができない。

 

3  万年壁に隣接する竹壁の工事費償還請求権との相殺の主張について

(一)  《証拠略》によると、本件区分所有者は関連会社である有限会社陽伸名義で、平成二年五月、有限会社高橋造園に注文して、前記東側ベルト状部分の樹木の外側(前記境界の万年壁の内側)に沿って竹の桂垣を巡らしたこと及びその費用として一〇九万四三二三円を要したことを認めることができる。

 

(二)  本件区分所有者は、右工事は前記境界壁たる万年壁が老朽化し倒壊が予想されたので本件管理組合のためにする意思でしたものであるから、右費用について本件管理組合に償還を請求する権利があると主張する。しかし、右竹垣が右主張のとおりの必要があったため設置されたことを認めるに足りる証拠はない。かえって、《証拠略》によると、右竹垣は右主張の倒壊に備えた被害防止の面でそれほど効用のあるものではなく、前記タイルと同様に庭園の美観を増す効用が著しいものであることを認めることができるから、本件区分所有者は庭園の専用使用権者として本件区分所有者自身のために右工事をしたと推認せざるを得ない。そうすると、本件区分所有者は本件管理組合に対し右工事費用の償還を請求することができないから、右償還請求権を自働債権とする本件区分所有者の相殺の主張は、その余の点について判断するまでもなく採用することができない。

 

4  共用部分の樹木剪定費の償還請求権との相殺の主張について

  《証拠略》によると、本件区分所有者は昭和六一年一〇月ころから、前記高橋造園に注文して前記東側ベルト状部分に植えられている樹木の剪定等の手入れを本件区分所有者の費用でしてきたことが認められるところ、本件区分所有者は、右手入れの費用は共用部分に係る費用であり本件管理組合のためにする意思でしたものであるから、本件区分所有者は本件管理組合に対しその費用の償還を請求する権利があると主張する。

  しかし、前記認定と《証拠略》により認められる現地の状況によると、東側ベルト状部分は隣地との境界の内側でありそこに植えられている樹木は本件区分所有者が専用使用権を有する庭園の一部に該当すると認めるのが相当である(管理規約第七条第二項本文にいう「庭園の一部」が本件区分所有者が専用使用権を有する部分を限定し東側ベルト状部分を除いた趣旨であると解することはできない。なお、原審口頭弁論期日で陳述された平成七年四月一三日付け準備書面において、本件区分所有者は、昭和六二年ころまでは本件区分所有者も右部分が専用庭園の一部であると信じていた旨主張している。)。そして、管理規約の前記第七条第二項と後記第二一条の規定によると、右庭園の樹木の維持管理は本件区分所有者がその費用負担においてすべきものであることが明らかであり、この定めを無効とすべき事情があることを認めるに足りる証拠はない。そうすると、本件区分所有者は右費用の償還を本件管理組合に請求する権利はないから、本件区分所有者の前記相殺の主張は、その余の点について判断するまでもなく採用することができない。

 

5  駐輪場に面する庭の樹木の剪定費用の償還請求権との相殺の主張について

  本件区分所有者の右主張については、本件区分所有者がその主張のとおりの理由で右主張の場所の剪定作業をしその主張のとおりそのための費用を要したことを認めるに足りる的確な証拠がない。したがって、その余の点について判断するまでもなく、本件区分所有者の右主張は採用することができない。

 

6  A大使館敷地内の樹木剪定費の償還請求権との相殺の主張について

(一)  《証拠略》によると、次の事実を認定することができる。

  前記庭園の南側は旧A大使館の敷地に接し右大使館敷地は高木が植えられた庭園になっているが、昭和六一年ころ以降は右庭園の手入れがされなかったため、樹木の枝が本件マンションの敷地にはみ出し、通風障害、害虫被害等の支障を及ぼし放置し得ない状況になった。しかし、右大使館敷地の管理者は正常な対応ができない状態にあり、本件マンション側が自衛として対処せざるを得ない事態になっている。そして、前記管理規約では「敷地及び共用部分の管理については管理組合がその責任と負担においてこれを行うものとする。但し、バルコニー、庭園等の管理のうち、第七条第一項乃至第三項に定めるものについては、専用使用権を有する者がその責任と負担とにおいてこれを行うものとする。」と定められているところ(第二一条。前記被害状況に照らすと特段の事情のない限り右の被害に対応する手段を講じることは右敷地及び共用部分の管理に該当し本件管理組合においてこれを行う義務があるということができる。)、本件管理組合は一部右状況に対処し、例えば平成六年四月には本件管理組合が越境する樹木の剪定等をしその費用二九万四五八〇円を負担した。しかし、本件管理組合は、本件区分所有者が専用使用権を有する前記庭園に面する部分は本件区分所有者の負担ですべきものとして右部分については右剪定等をしていない。

  本件区分所有者は、昭和六一年以降右部分について自ら高橋造園及び大森造園建設株式会社等に注文して剪定作業をしているが、その費用として、昭和六一年一〇月の作業については一〇万八〇〇〇円(ただしこの費用には専用庭園の手入伐採費用も含まれている。)、平成元年一〇月の作業については三二万円(ただしこの費用にも専用庭園の手入伐採費用が含まれている。)、平成六年七月の作業については三五万〇二〇〇円、同年一二月の作業については三六万八七四〇円の合計一一四万六九四〇円を要した。

 

(二)  ところで、前記庭園の樹木の維持管理については、本件区分所有者が自らの費用で行うことを要することは前記のとおりであるが、前記管理規約は、右庭園に面する敷地外に存在する樹木が右庭園を含む敷地及び本件マンションの居住者の生活に被害を及ぼす場合にこれを予防しあるいは除去することまでを本件区分所有者の義務とするものではない。そして、前記認定によると、旧A大使館敷地の樹木は本件区分所有者を含む本件マンションの区分所有者全員の利益のため右区分所有者側で剪定せざるを得ない実状にあると認めることができる。そうすると、本件区分所有者のした前記作業は、真に必要であった限りにおいて本件管理組合がする義務のあるものを本件区分所有者が代わってしたということができるから、本件管理組合は本件区分所有者に対しその費用を償還する義務があるというべきである。そして、本件区分所有者は平成六年中に二度作業をしているが、そこまでの必要があったことを認定するに足りる証拠はないから、そのうち低額の三五万〇二〇〇円が必要費用であったと認めるのが相当である。また昭和六一年及び平成元年の作業はいずれも専用庭園の手入伐採費用も含むものであるところ、《証拠略》によると専用庭園関係の費用部分は多くても四万円を上回るものではないと認めるのが相当であるから、これを差し引くとそれぞれ六万八〇〇〇円及び二八万円になり、これらが償還請求することのできる費用に当たると認めることができる。

 

(三)  本件管理組合は、区分所有者の一人にすぎない本件区分所有者は本件管理組合の承諾を得ずに管理行為をすることはできないところ、本件区分所有者のした前記剪定等は本件管理組合の承諾がなくその意思に反してされたものであるからその費用の償還を請求することはできないと主張する。しかし、前記認定によると本件区分所有者は本件管理組合がその義務のある管理行為を怠ったのでやむなく自らこれをしたのであり本件管理組合はこれにより右費用の負担を免れる利益を得ているのであるから、本件区分所有者は本件管理組合に対し事務管理費用の償還として右費用の償還を請求することができるというべきである。

 

(四)  そして、本件区分所有者が平成七年四月一三日の原審第四回口頭弁論期日において右債権を含む債権を自働債権とし本件管理組合の本訴請求債権(ただし拡張前)を受働債権として対当額で相殺する旨の意思表示をしたことは本件の記録上明らかである。

  しかし、本件請求債権のようなマンションの管理費等は、マンションの区分所有者の全員が建物及びその敷地等の維持管理という共通の必要に供するため自らを構成員とする管理組合に拠出すべき資金であり、右拠出義務は管理組合の構成員であることに由来し、その内容は管理組合がその規約に定めるところによるものである。また、マンションの維持管理は区分所有者の全員が管理費等を拠出することを前提として規約に基づき集団的、計画的、継続的に行われるものであるから、区分所有者の一人でも現実にこれを拠出しないときには建物の維持管理に支障を生じかねないことになり、当該区分所有者自身を含む区分所有者全員が不利益を被ることになるのであるし、更には管理組合自体の運営も困難になりかねない事態が生じ得る。このような管理費等拠出義務の集団的、団体的な性質とその現実の履行の必要性に照らすと、マンションの区分所有者が管理組合に対して有する金銭債権を自働債権とし管理費等支払義務を受働債権として相殺し管理費等の現実の拠出を拒絶することは、自らが区分所有者として管理組合の構成員の地位にあることと相容れないというべきであり、このような相殺は、明示の合意又は法律の規定をまつまでもなく、その性質上許されないと解するのが相当である。そうすると、本件区分所有者の前記相殺の意思表示は結局効力を生じなかったことになる。

 

三  結論

  以上によると、本件管理組合の当審における拡張前の請求は理由があるから、これを認容した原判決は相当であり、本件控訴は理由がない。また右拡張に係る請求は理由があるから、これを認容すべきである。よって、控訴費用及び附帯控訴費用の負担について民訴法九五条、八九条を、仮執行の宣言について同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

                                                                                                                               以上

東京地判平成4年5月22日(判時1488号137頁):理事長が個々の区分所有者に対して負担する報告義務の範囲

私は、弁護士の中では極めて少数派ですが、マンション管理に関わる業務を中心に活動しています。その関係で、多くの理事会や総会に参加し、毎日のように理事や区分所有者、マンション管理士、管理会社の担当者等から相談を受けています。

 

その中で、理事(長)が過剰な負担を強いられて困っているという相談の一つとして、特定の区分所有者からの大量の意見や質問への対応、分かりやすく言えばクレーマーに対する対応業務があります。

 

もちろん、区分所有者が、総会に出席したり、あるいは管理人などを通じて、マンション管理についての質問をしたり意見を述べることは、何の問題もありません。

 

問題になるのは、いわゆる「クレーマー」住民からのものです。勝手な妄想や根拠のない独断的な主張を前提にして、同じことを何度も質問したり、理事(長)が自分の意に沿う回答をするまで、繰り返し回答を求めてくるのです。理事(長)個人に対する攻撃が含まれることも少なくありません。

このような過剰要求や個人攻撃が繰り返されると、まじめな理事(長)ほど対応に苦慮し、疲れ切ってしまいます。それを見ている他の理事も、当然、理事会活動への意欲を失い、自分の任期が終わるまで静かにやり過ごすことしか考えられなくなります。

 

他方で、クレーマーが決めゼリフのように言うのが、「理事(長)は委任契約の受任者なんだから、区分所有者である自分に対して説明責任がある。質問に答えないのは義務違反だ。」という主張です。

理事(長)といえども通常は法律の素人なので、「(準)委任契約」や「説明義務」、「報告義務」などの“それらしい言葉”を並べられると、明確に反論できないことが多いでしょう。

また管理会社の担当者も、法律問題については明確な回答をすることができません(知識や能力の問題ではなく、弁護士法違反になることを回避せざるを得ないのです。)。

 

そこで、この裁判例をご紹介します(東京地判平成4年5月22日 判時1488号137頁)。理事(長)を過剰な負担から解放してくれるものと考えます(なお、下でご紹介する裁判例がクレーマー事案であったということではなく、クレーマーに対応するときに活用できる先例という趣旨です。)。

 

(結論)

理事長は、個々の区分所有者の請求に対して、直接報告する義務を負わない。

 

(理由)

①理事長は、総会決議と理事の互選により選出されたのであり、個々の区分所有者から管理者となることを直接委任されたものではない。

したがって、個々の区分所有者の受任者であるとみることはできない。

②区分所有法43条は、管理者(理事長)の報告義務について、少なくとも毎年一回招集される集会(総会)においてなされることを予定している。

  

(引用元:ウエストロージャパン) 

主  文

 一  原告らの請求をいずれも棄却する。

 二  訴訟費用は原告らの負担とする。

 

理  由

第一  請求

一  被告は、原告ら各自に対し、別紙文書目録記載の文書を閲覧させ、かつ、その写しを交付せよ。

二  被告は、原告ら各自に対し、別紙報告事項目録記載の事項を文書により報告せよ。

 

第二  事案の概要

  本件は、別紙物件目録記載の一棟の建物(以下「本件建物」という。)の専有部分の区分所有者である原告らが、「建物の区分所有等に関する法律」(以下「区分所有法」という。)二五条所定の管理者(以下、「管理者」という。)であつた被告に対し、区分所有法二八条が準用する民法六四五条の委任終了後の報告義務の定めに基づき、被告が管理者に就任中又は就任前にされた業務に関する文書の閲覧・写しの交付及び書面による報告を求めた事案である。

 

一  争いのない事実等

1  当事者

(一) 原告らは、それぞれ本件建物の専有部分の区分所有者である。

(二) 本件建物の区分所有者(店舗一二戸、住居四三戸、合計五五戸)は、全員で、区分所有法三条の区分所有者の団体である「ダイアパレス町屋管理組合」(以下、「管理組合」という。)を構成し、同法に定める集会である「総会」を開き、同法に定める規約である「ダイアパレス町屋管理規約」(以下、「管理規約」という。)を定め、同法の管理者である「理事長」を置いている。

(三) 被告は、昭和六三年四月一七日から平成二年六月二日まで、理事長の地位にあつた。

 

2  総会の決議と特別委員会への委託

(一) 昭和六〇年一月ころ、本件建物の東側に、町屋駅前東地区市街地再開発組合(以下「再開発組合」という。)が高層ビル(以下、「再開発ビル」という。)を建築する計画が発表された。

(二) 再開発ビルが建築されることになれば、本件建物にもそれに伴う諸問題が発生することが予想されたことから、本件建物の区分所有者のうち有志数名は、昭和六〇年一〇月ころ、この問題に取り組むための「再開発特別委員会」を作り、理事長と連携しつつ、諸問題の検討や再開発組合との交渉を開始した。

(三) 本件建物の区分所有者は、昭和六一年五月一日の総会において、前項の「再開発特別委員会」を管理組合における正式な集団と認め、区分所有者のためにする再開発組合との交渉、合意及び事後処理等を右委員会(以下、「特別委員会」という。)に取り扱わせる旨決議し、特別委員会委員六名を選出した(以下、右決議により特別委員会に取り扱わせることとした、再開発組合との交渉、合意及び事後処理等を、「本件事務」という。)。

(四) これを受けて、当時の理事長松本宗雄は、昭和六一年五月一日、特別委員会(委員長竹中成司)に対し、本件事務の処理を委託した。

 

3  特別委員会による本件事務の処理

(一) 特別委員会は、再開発組合と交渉の結果、昭和六一年六月一〇日ころ、同組合との間で、再開発ビル建築に伴う補償問題に関する覚書を締結し(争いがない。)、同年一〇月二四日、同組合から、工事迷惑料として二二〇〇万円を受領した(以下「補償金(一)」という。)。

(二) 特別委員会は、昭和六一年一二月二五日ころまでに、補償金(一)の使途及び区分所有者に対する分配方法を定め、そのころ、該当する区分所有者に対し、これを支払つた。

  なお、その際、原告高には三〇万円(争いがない。)、同高藤には三万円の支払がされたが、同石黒及び同榎本には何の支払もされなかつた。

(三) 更に特別委員会は、昭和六一年一二月一五日、再開発組合との間で工事協定書を締結し、再開発ビルの本件建物側に面する廊下部分に目隠し板を設置すること及び再開発組合が日照その他の迷惑料等の補償金を支払うこと等を合意した。

(四) 右目隠し板の設置は法令上許されないことが判明し、実現しなかつたが、特別委員会は、昭和六三年四月一二日、再開発組合から、目隠し板の設置に代わる補償等として、一三〇〇万円の支払いを受けた(以下「補償金(二)」という。)。

(五) 特別委員会は、昭和六三年五月二六日ころまでに、再開発ビル側に面する専有部分の区分所有者に対しては現金ではなくエアコン等の現物を支給すること及び補償金(二)の使途を決定し、そのころ、該当する区分所有者に、希望の物品を支給した。

(六) また、特別委員会は、昭和六三年一一月二五日から、補償金(一)(二)の内二二〇〇万円を用いて、本件建物一階中央通路・玄関等の改修工事をした(右工事がされたことは争いがない。その余の事実につき、《証拠略》)。

 

二  争点

1  管理者である理事長は、その取扱う事務に関し、区分所有法二八条で準用される民法六四五条により、個々の区分所有者の請求に対し、直接報告すべき義務を負うか否か。

2  右1が肯定される場合、区分所有法上本来管理者である理事長の取扱う権限に属しない事項であつても、総会が当該事項に関する事務を特別委員会に取り扱わせる旨決議し、これに基づき理事長が右事務を同委員会に委託したときは、理事長は、右事務につき、区分所有法二八条で準用される民法六四五条の報告義務を負うか否か。

 3  右1、2が肯定される場合、区分所有法二八条で準用される民法六四五条の報告義務には、文書の閲覧・写しの文付及び文書による報告の義務が含まれるか否か。

 

第三  争点に対する判断

一  争点1(理事長は直接区分所有者に報告すべき義務を負うか否か)について

  区分所有法二八条は、「この法律及び規約に定めるもののほか、管理者の権利義務は、委任に関する規定に従う。」と定め、民法六四五条は、受任者は委任者の請求あるときはいつでも委任事務処理の状況を報告し、委任終了の後は遅滞なくその転末を報告することを要する旨定めている。

  そこで、本件において管理者である理事長が個々の区分所有者の請求に対して直接その取扱う事務に関する報告をする義務を負うか否かにつき検討するに、本件においては、以下の理由により、管理者である理事長は、管理組合の総会において右の報告をすれば足り、個々の区分所有者の請求に対して直接報告する義務を負うものではないと解するのが相当である。

  すなわち、区分所有法二五条は、規約に別段の定めがない限り集会の普通決議により管理者を選任する旨を定めているところ、本件においても、管理者である理事長は、右二五条及び管理規約の規定により、区分所有者の過半数が出席した総会で議決権(一住戸一店舗につき一議決権)の過半数により選任された理事数名の中から、互選によつて選出されたにすぎず、個々の区分所有者から直接管理者となることを委任されたものではないから、右理事長が個々の区分所有者の受任者であるとみることはできない。また、区分所有法四三条は、管理者の取扱う事務の報告義務につき、「管理者は、集会において、毎年一回一定の時期に、その事務に関する報告をしなければならない。」と規定し、更に同法三四条一項二項は、管理者に集会を招集する権限を付与するとともに、少なくとも毎年一回集会を招集する義務を定めている。したがつて、区分所有法は、管理者の取扱う事務についての報告は、右の集会においてされることを予定しているというべきである。そして、管理者が右の報告を怠るときは、区分所有者の五分の一以上で議決権の五分の一以上の要件を備えた者が管理者に対し集会を招集するよう請求する権利を持ち、それでも集会が招集されないときは、右請求をした区分所有者が集会を招集することができるとされているから(区分所有法三四条三、四項)、管理者が集会の招集を怠ることで報告義務を回避する場合が仮にあつたとしても、区分所有者が集会で報告を受けるための方途は講ぜられているということができる。

  したがつて、前記のとおり、管理者である理事長と個々の区分所有者との間に個別の委任契約が認められない本件においては、管理者である理事長がその取扱う事務につき個々の区分所有者の請求に対し、区分所有法二八条、民法六四五条により直接報告をする義務を負担すべきものとはいえない。

 

二  そうであるとすれば、管理者である理事長がその取扱う事務につき区分所有者の請求に対し直接報告する義務を負うことを前提とする原告らの請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。

 

以上

対応業務と料金

マンションの管理組合が弁護士に依頼する場合、「どのような業務」を「いくら」でやってくれるのか、「依頼から受任までの流れ」はどのようになるのか、などについて具体的に教えてほしいという要望をよくいただきます。

特に最近は、それらを「依頼者目線で」説明するように要請されることが多くなりました。良い傾向だと思いつつ、これまではそのような説明ができていなかったと反省しています。

そこで、以下では私の対応業務や料金、実際の受任の流れなどを(できるだけ依頼者目線で)説明いたします。

 

【受任の流れ】

①最初は、理事の方やフロントマン(管理会社の担当者)から、電話やメールでご連絡をいただくことが多いですね。

・tsuchiya@sn-law.jp

・0335357000

~電話の例~

相談者A「私はXマンションで理事をしているAと申します。ブログを見てお電話させていただきました。マンション管理のことで相談させていただきたいのですが。」

土屋「ありがとうございます。では、まずこの電話で相談の概要を教えてください。その内容によって、その後の流れや料金について説明させていただきます。」

相談者A「先日、総会が開かれたのですが、その決議について、住民から無効だというような意見が出ていて、裁判をするとまで言われているんです。それについてご相談したいのですが。」

土屋「裁判の可能性もあるということでしたら、議案書と議事録を見せていただきながら詳しい事情をお聞きした方が良いでしょうね。管理規約も確認する必要がありますし。それらの資料をお持ちいただいて、事務所で打ち合わせをさせていただいてもよろしいですか。」

相談者A「ぜひそうさせていただければと思います。」

土屋「承知いたしました。事務所は銀座8丁目にあります。東京総合法律事務所という名前ですので、詳しい場所はホームページで確認してください。銀座駅や地下鉄銀座線新橋駅から徒歩5分です。銀座の中央通り沿いのビルの9階になります。資生堂パーラー博品館の中間くらいにあります。」

相談者A「調べて伺います。」

土屋「相談料ですが、1時間3万円(税別)になります。と言っても、マンション関係の初回相談は資料確認に時間がかかるので、そこは時間に含めないように考えていますし、多少の延長は構いません。ですので、初回の相談は1時間分の相談料のみとお考え下さい。もし事件として受任する可能性があれば、その着手金や成功報酬についても予め説明いたします。ただマンションの場合、事件として委任していただくには、理事会や総会での決議が必要になるでしょうから、初回相談の際に契約をお願いするようなことは致しません。」

相談者A「ありがとうございます。」

土屋「では日程の調整をさせていただきたいのですが、相談に来られるとしたら、Aさんだけではないですよね。他の理事も日程が合えば来られますか?」

相談者A「そうさせていただければと考えています。」

土屋「では、私の方で調整できる日時をいくつかお伝えしますので、その中から理事の方々で調整していただき、決まった日時をご指示ください。管理会社の担当者に同席いただいても結構です。メールアドレスを教えていただければ、候補日時をお伝えします。」

相談者A「では、ブログに書かれていた土屋先生のメールアドレスに私がメールしますので、それに返信していただけますか。」

土屋「分かりました。ではメールをお待ちしています。ご連絡いただきありがとうございました。」

相談者A「こちらこそよろしくお願いいたします。ありがとうございました。」

 

相談者との最初のやりとりは、だいたいこのような流れです。

連絡をいただくきっかけとしては、受任したことのあるマンションの理事からのご紹介や、マンション管理士の先生からのご紹介、管理会社の担当者からのご紹介、さらには私の講演を聴いていただいた方からのご相談などが多いと思います。

 

【対応業務】

対応業務については、特に限定はありません。

さしあたり思いつくままに挙げてみます(記載したのは私が実際に相談等を受けた経験があるものですので、特に網羅性はありません。)。

 

〇総会の運営サポート(合理化・効率化・適法化)

〇理事会の運営サポート(合理化・効率化・適法化)

〇住民から理事や理事会に対するクレームへの対応

〇管理に関する問題

・ハード面

 雨漏り、水漏れ、専有部分のリフォーム、長期修繕計画見直し(業者選定等)、大規模修繕工事実施(業者選定等)、耐震改修工事、建替え、建築瑕疵(施工不良。外壁タイル落下・浮き、後施工スリーブによる鉄筋破断、地下ピット漏水、アフターサービス・品確法)、日照、電波(携帯基地局)、傾き(勾配不良)

・ソフト面

 滞納、修繕積立金不足(値上げ)、管理規約改正(最新条項導入)、管理会社変更(業者選定)、名簿管理(個人情報保護法対応)、民泊対応、賃貸住戸の増加、役員のなり手不足、住民の高齢化(徘徊、迷惑行為、理事会や総会妨害)、相続(相続放棄)、住民の無関心、住民同士(理事同士)の紛争、理事による不当行為(専横、癒着、利益相反名誉毀損行為など)、自治会対応、防災対策(震災時の対応)、保険契約

〇規約や細則に関わるトラブル

・違法駐車、違法駐輪、バルコニーの使用方法、共用部分への私物放置

〇生活上のトラブル

・生活音、ペット問題、臭気(におい)問題、ストーカー、ゴミ屋敷

〇各種セミナー講師(規約や区分所有法の一般的解説、最新判例講義など)

 

【料金】

対応業務を挙げすぎたため、さしあたり主な料金だけを記載します。

〇相談料:1時間3万円(税別)

〇顧問料:月額10万円(税別)~

・顧問料は、戸数や対応業務により相談させていただきます。理事会への出席は含んでおりません(必要な場合には日当で対応いたします。)。

・また、複数の管理組合が共同で費用を負担して顧問契約をしていただいている例もありますので、ご希望があればご相談ください。

〇日当:7万円(税別)

〇訴訟等:旧日弁連報酬基準と同様の基準(但 最低着手金50万円)

                      以上

 

マンション管理士 弁護士 土屋賢司

tsuchiya@sn-law.jp

速報(判決文):最高裁判決平成31年3月5日 高圧一括受電総会決議違反の不法行為性(区分所有者の解約義務):否定

主          文

 

原判決を破棄し,第1審判決を取り消す。

被上告人の請求をいずれも棄却する。

訴訟の総費用は被上告人の負担とする。

 

理    由

上告代理人平田直継の上告受理申立て理由(ただし,排除されたものを除く。) について

1  原審が適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。

(1)上告人ら及び被上告人は,いずれも札幌市内の区分所有建物5棟から成る総戸数544戸のマンション(以下「本件マンション」という。)の団地建物所有者である。

 

(2)本件マンションにおいて,団地建物所有者又は専有部分の占有者(以下, これらを併せて「団地建物所有者等」という。)は,個別に北海道電力株式会社(以下「電力会社」という。)との間で専有部分において使用する電力の供給契約(以下「個別契約」という。)を締結し,団地共用部分である電気設備を通じて電力の供給を受けている。

 

(3)平成26年8月に開催された本件マンションの団地管理組合法人(以下「本件団地管理組合法人」という。)の通常総会において,専有部分の電気料金を削減するため,本件団地管理組合法人が一括して電力会社との間で高圧電力の供給契約を締結し,団地建物所有者等が本件団地管理組合法人との間で専有部分において使用する電力の供給契約を締結して電力の供給を受ける方式(以下「本件高圧受電方式」という。)への変更をする旨の決議がされた。本件高圧受電方式への変更をするためには,個別契約を締結している団地建物所有者等の全員がその解約をすることが必要とされている。

 

(4)平成27年1月に開催された本件団地管理組合法人の臨時総会において, 本件高圧受電方式への変更をするため,電力の供給に用いられる電気設備に関する団地共用部分につき建物の区分所有等に関する法律(以下「法」という。)65条に基づく規約を変更し,上記規約の細則として「電気供給規則」(以下「本件細則」という。)を設定する旨の決議(以下,上記(3)の決議と併せて「本件決議」という。)がされた。本件細則は,本件高圧受電方式以外の方法で電力の供給を受けてはならないことなどを定めており,本件決議は,本件細則を設定することなどにより団地建物所有者等に個別契約の解約申入れを義務付けるものであった。

 

(5)本件団地管理組合法人は,平成27年2月,本件決議に基づき,個別契約を締結している団地建物所有者等に対し,その解約申入れ等を内容とする書面を提出するよう求め,上告人ら以外の上記団地建物所有者等は,遅くとも同年7月までに上記書面を提出した。しかし,本件決議に反対していた上告人らは,上記書面を提出せず,その専有部分についての個別契約の解約申入れをしない。

 

2 本件は,被上告人が,上告人らがその専有部分についての個別契約の解約申入れをすべきという本件決議又は本件細則に基づく義務に反して上記解約申入れをしないことにより,本件高圧受電方式への変更がされず,被上告人の専有部分の電気料金が削減されないという損害を被ったと主張して,上告人らに対し,不法行為に基づく損害賠償を求める事案である。

 

3 原審は,前記事実関係等の下において,要旨次のとおり判断して,被上告人の請求を認容すべきものとした。

 本件マンションにおいて電力は団地共用部分である電気設備を通じて専有部分に供給されており,本件決議は団地共用部分の変更又はその管理に関する事項を決するなどして本件高圧受電方式への変更をすることとしたものであって,その変更をするためには個別契約の解約が必要である。したがって,上記変更をするために団地建物所有者等に個別契約の解約申入れを義務付けるなどした本件決議は,法66条において準用する法17条1項又は18条1項の決議として効力を有するから, 上告人らがその専有部分についての個別契約の解約申入れをしないことは,本件決議に基づく義務に反するものであり,被上告人に対する不法行為を構成する。

 

4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

(1)前記事実関係等によれば,本件高圧受電方式への変更をすることとした本件決議には,団地共用部分の変更又はその管理に関する事項を決する部分があるものの,本件決議のうち,団地建物所有者等に個別契約の解約申入れを義務付ける部分は,専有部分の使用に関する事項を決するものであって,団地共用部分の変更又はその管理に関する事項を決するものではない。したがって,本件決議の上記部分は,法66条において準用する法17条1項又は18条1項の決議として効力を有するものとはいえない。このことは,本件高圧受電方式への変更をするために個別契約の解約が必要であるとしても異なるものではない。

 

(2)そして,本件細則が,本件高圧受電方式への変更をするために団地建物所有者等に個別契約の解約申入れを義務付ける部分を含むとしても,その部分は,法66条において準用する法30条1項の「団地建物所有者相互間の事項」を定めたものではなく,同項の規約として効力を有するものとはいえない。なぜなら,団地建物所有者等がその専有部分において使用する電力の供給契約を解約するか否かは,それのみでは直ちに他の団地建物所有者等による専有部分の使用又は団地共用部分等の管理に影響を及ぼすものではないし,また,本件高圧受電方式への変更は専有部分の電気料金を削減しようとするものにすぎず,この変更がされないことにより,専有部分の使用に支障が生じ,又は団地共用部分等の適正な管理が妨げられることとなる事情はうかがわれないからである。

 また,その他上告人らにその専有部分についての個別契約の解約申入れをする義務が本件決議又は本件細則に基づき生ずるような事情はうかがわれない。

 

(3)以上によれば,上告人らは,本件決議又は本件細則に基づき上記義務を負うものではなく,上告人らが上記解約申入れをしないことは,被上告人に対する不 法行為を構成するものとはいえない。

 

5 これと異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,以上に説示したところによれば,被上告人の請求はいずれも理由がないから,第1審判決を取り消し,同請求をいずれも棄却すべきである。

 

よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

 

( 裁判長裁判官  岡部喜代子  裁判官  山崎敏充  裁判官  戸倉三郎    裁判官林  景一         裁判官   宮崎裕子)